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力尽きるまで運営、「ぐれんらがん」のファンイラストをのっけているブログです。ろしうがじわじわ増えます。詳細は右メニュー「ごあんない」をご参照くださいませ。
Posted by - 2024.05.05,Sun
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Posted by - 2009.02.18,Wed
出遅れバレンタインそのいち、以下から小話です。
ロ ー ジ ェ ノ ム 戦後、ヨ ー コ が旅立って数年後の、きたよこ

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ずいぶん賑やかな街になった。
数年前、旅立つ時には建築中だったビルも、そこかしこにそびえ立っている。
圧迫されるようで、なんだか落ち着かない。
人混みにも酔ってしまいそうだ。

「(…コレハナ島の方が、性に合ってるみたい)」
のんびりしていてどこまでも海が広がっている、住み慣れた土地の風景が、ヨーコの頭に浮かんだ。

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カミナシティに久しぶりにやってきたのは、「コレハナ島のヨマコ先生」として、教材の買い出しのため。
「(やっぱり街の方が、教材は豊富ね)」
たっぷり買い込んだ教科書。それと…チョコレートの箱。

なんでも、2月14日に、女性から男性に贈り物___主にチョコレート、をプレゼントする習慣が流行っているらしい。
お菓子屋さんらしきお店はどこも、人の出入りが絶えない。
コレハナ島では買うことのできない、甘い甘いお菓子。
島の人たちの分も買い込んで、ずいぶん大荷物になってしまった。
ずしりと重い荷物をかかえながらも、教え子たちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
本当は、思い人に気持ちを伝える日らしいけれど。
「(あんたの分も、ちゃんと買ってあげたんだからね)」
帰りに、お墓に寄っていくから。
今は静かに眠っている人のことを、ヨーコは思い返した。

まだ地上に出たばかりの頃は、日々の食料を手に入れるのに精一杯だった。
ダイグレンを奪った後は、食うに困る事は無くなった。
豊富な食材でココ爺が作ってくれるお料理は、どれもとても美味しかった。
ただ あの頃は、それを無理に胃袋に詰め込むばっかりで、充分味わえる程の余裕が無かったけれど。
これを食べたら、あいつ、どんな顔をしたかしら。
そんな事ばかりが、頭に浮かんだ。

…今も。こんな甘いもん食えるかって言うかしら。それとも、案外気に入るのかな…

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「おっと…!」
「きゃ、」
ぼーっとしていて、人にぶつかってしまった。
「(やだ私、なまったわね…)」
自分の鍛練不足を悔いながら、ヨーコはぶつかってしまった相手に謝った。
「ごめんなさ…」
一瞬、時が止まる。ひさびさに、唐突に目の前に現れた、仲間の顔。
「…キタ、」
「すみません、大丈夫ですか?」
「…は…」
…気付いて、ない?
「すっごい荷物すね、方向、あっちですか?…よければ俺、少し持ちましょうか」

親切は素直に有り難かった、が。
「ヨマコ」モードで、眼鏡をかけて、髪をまとめて帽子をかぶっている。
冬なので、動きづらいけれど、さすがにコートをしっかり羽織っている。

…胸とお尻が隠れているだけで、こうも分からないものなの…?
少しイラつきながらも、いたずら心が湧いた。
「…じゃあ、途中まで、お願いしてよろしいかしら…」

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ss-kitayoko-2009vt-01.jpg

「…へえ、先生なんすか…」
何気なく会話を交わす中、いつ気付くかとヨーコは心の中で笑いを堪えていたものの、さっきから、一向に気が付く気配がない。
「(…まったく…ぜんぜん変わってないわね)」

キタンとは、彼のデリカシーの無い言葉から、ずいぶん喧嘩をした。
”なぁに そんな めかしこんでんだよ、らしくねぇなぁ”…きっと、自分から正体を明かしたら、そんな風に大笑いされそうな気がしてきた…。

ふと、キタンの抱えている花束に目がいく。
「それは…誰かに差しあげるの?」
へぇ、あのキタンがやるじゃない、と心の中でつぶやく。
「いやあ、これは…その、妹たちに、っす」
「妹さん…」
キヨウ、キノン、キヤル。懐かしい顔が目に浮かぶ。
「毎年、この日に家族で集まるのがなんか恒例みたいになっちまってるんです。
いっつも贈りもんを貰ってばっかりじゃあ さすがに悪いと思って、ね」

コレハナ島での暮らしに溶け込んで、「ヨマコ先生」としてなじんでいる今、改めて昔の仲間に会いに行くのは、なんだか気恥ずかしくて。随分とご無沙汰してしまっている。
そんな、数年振りに会った仲間は、まったく自分に気付く気配なし…。
もうイライラを通り越して脱力を感じ始めたヨーコだったが、今も変わらず仲の良いキタンたち兄妹の姿が思い浮かんで、じんわり、気持ちがあたたかくなった。

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「あ、この辺りまでで。どうもありがとうございました」
「え、大丈夫っすか」
「ええ、ガンバイクを留めてある駐車場、すぐそこですから」
この交差点からキタンが向かうキヨウの家は、自分と向かう方向は反対側。ヨーコから、さりげなく別れをうながした。
「あ、」
ヨーコは、紙袋を探った。
「これ。ご親切のお礼です」
可愛らしい小さな包みのチョコレート。
「いや、でも…お土産なんでしょう」
「ちょっと多めに買ったんです、よろしければ…」
「そうっすか……じゃあ、これ」
キタンは、花束から一輪、花を差し出した。
「…え、」
いいんですか、とヨーコが見返すと、
「こいつのお礼です」
と、キタンは照れくさそうに、手の中の包みをひらひらさせた。

信号が変わる。
慌ただしく人が流れる中、ヨーコはキタンに花の礼を述べて、二人は別々の方向へ歩き出した。

ss-kitayoko-2009vt-01.jpg

「ちょっとは、女の子に気がつかえるようになったじゃない?」
ふと、聞き覚えのある、しかし聞こえるはずのない声に、キタンはふり返る。

けれど、雑踏の中、その声の主の姿は見つからなかった。

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「兄ちゃん、今年も俺たちからだけかよー」
「うるせえなあ!」
収穫がひとつもないことをネタに、すかさずキヤルにいじられる。
キヨウとダヤッカ宅。皆それなりに仕事や家庭を持って、生活の場も別々。
キヨウ、キノン、キヤル(+義弟ダヤッカ)…”黒の兄弟”で集まるのは久々で、賑やかだ。

”男はそんな浮かれたイベント、関係ねえんだよ!”…うっかり、政府内で硬派発言をしてしまったせいか、2月14日の何かを貰ったりする催しは、キタンにとって縁遠いものとなっていた。
かといって、発言を撤回するなど、男らしくない。
それに何より、この日には決まって、可愛い妹たちからの贈り物はいつも用意されていた。
後悔の念が無いわけではないが、キタンにはそれだけで充分だった。

「(…まさか、な)」
さっきまで一緒だった人からもらった包みを、そっと取り出す。
帽子からちらちらのぞく朱の髪、落ち着いて大人びた喋り方だけれど、どこか懐かしい声色。
「(あいつが、あんなにおしとやかになってるわけねえよ)」
「(それにあいつがセンセイとか、あり得ねぇだろ…)」

今まで一緒だった女教師の姿と、負けん気が強くてものすごい乳とか尻とかの持ち主とは、イメージがぜんぜん繋がらない。

唯一、肉親以外から貰った初めてのチョコレート。キタンは悶々としつつ、その包みを見つめた。
キヤルにバレると更に騒がれそうなので、一人、こっそりと。

<終>
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